田の神さんのお話

角田産直童話村

角田の田んぼには、田の神様が住んでいるのです。であった人の話では、背丈は親指ほどで、白いひげを生やした、おじいさんの姿に見えるそうです。しかも、白い着物に白いはかま、襟元には朱色のりぼんと、なかなか品の良いいでたちなのだそうです。
 神様といっても、お米を豊作にしたり、お天道様や川の神様を、自在に操る力もありません。田んぼに住んでいるだけの、神様なのです。それじゃ、何で神様なのかと、不思議に思う人もいるでしょう。実は、田の神様も、そのわけはトンとしらないのです。ただ、毎年、年の初めの正月に、角田のお百姓が、田んぼに松飾と鍬をもって田んぼにやってきます。そして、「田の神さん、今年もよろしくお頼みします」と、拝むのです。すると、田の神様も、(やっぱりわしは神様なんじゃナ)と思うのです。
 これは、そんな、角田の「田の神様」のお話です。

第3話 田の神様は田の神さま

 

 冬の田んぼにも、大晦日はやってきました。 近くのお寺から、ゴーンゴーンと鐘の音が鳴り響いてきます。田の神様も寝床から這い出して、そっと、夜の空を眺めてみました。一年 勤め上げた年神様が、ゆらりゆらりと空高く上っていくのが見えるのです。年神様は、年の初めに、新しく生まれ変わって、新しい年神様になるのです。田の神様も、薄い光の玉が 空高く上っていくのを、静かに見送りました。 次の日は元旦です。新しい年神様が、もうそれぞれの家に呼ばれています。人間達の手を打つ音が、田んぼにも聞こえてきます。
パン!パン!
 二回手を打つ音。これが、人間が神様をお呼びする音です。神様は人間の前にあらわれ、その願いに耳を傾けるのです。田の神様も、なんだかムズムズしてきました。 神様は、一月の十一日を、指折り数えてまっていました。その日は、農始めの日です。お百姓が新年になって初めて、農作業を始める日です。お百姓が、松飾と藁束と鍬を持って田んぼにやってきました。田んぼは、雪で白一面に覆われています。お百姓は、まず、鍬で三度田を耕しましたそこへ、藁束をおき、松飾を立てました。そして、一年の農作業の無事と、豊作を願って祈りました。
パン!パン!「田の神様、どうぞ、今年一年の無事と、豊作をお願いいたします。」
 田の神様は、松飾のところに呼ばれました。 松飾も、藁のしめ縄も、神様をお呼びするための、神聖な場所なのです。田の神様は、お百姓の祈りに深くうなづきました。 「そうとも、わしは、田の神さんなんじゃな」 お百姓は、松飾を残すと、鍬を担いで家に帰っていきました。すると、間もなく、田んぼのそばを、すごいスピードで、車が走り抜けていきました。そして、車の窓からビニール袋に入ったごみが、ポーンと田んぼに投げ込ま れたのです。その勢いで、袋から飛び出した、 コーラの缶が、カツンと松飾にあたりました。 カツン! 田の神様の胸が、同じ音を立てて痛みました。体中の力が抜けていくようでした。神様は へたへたと、田んぼに座り込んでしまいました。
 ちょうどそのとき、田んぼので、トンビが 餌を探して飛び回っていました。トンビは驚いて田んぼに舞い降りてきました。 「田の神さん、だいじょうぶかい?」 田の神様は、もうなんだか悔しくて、涙がぼろぼろこぼれてしまいました。 「なんてこった!あんなやつには、米は食わせたくないわい!」 すると、トンビは気の毒そうに言いました。 「気持はわかるよ、神さん。でもなあ、こんなことする輩は、はなから米など食わないよ」
 トンビの言う通りでした。コーラの缶の脇には、田の神様の見たことのない、食べ物の残りが散らかっていました。
 田の神様は、がっくりと肩を落としました。 「田の神さん。ほらほら、しっかりおしよ。まだまだ神さんを大事に思う人間が、ほら、ちゃんとやってきたよ」
 トンビは、神様をなだめると、また、食べ物を探しに、空へ舞い上がっていきました。
 田の神様の所にやってきたのは、美穂ちゃ んでした。 「あけましておめでとう!田の神様!今日は、必ずここで会えると思っていたのよ。あらあらでも、これは何てこと?」
 美穂ちゃんは、田んぼの中に散らかったごみを拾い集めました。曲がってしまった松飾もまっすぐ立て直しました。そして、心を込めて、手を打ち、祈りました。 パン!パン!
 そうです。この音です。田の神様の顔には、たちまち元気が戻って、背筋がしゃんとしてきました。 「美穂ちゃんや、わし、田の神様じゃよな」
 すると、美穂ちゃんは、にっこりして言いま した。 「そうよ、田の神様は田の神さま。どうぞ今年もお頼み申します!」
 田んぼの上では、トンビが安心したように一鳴きしました。 ピーヒョロロー その声に呼ばれたのでしょうか。いつのまにやら、風に乗って、花びらのような雪が舞い始めたのでした。