田の神さんのお話

角田産直童話村

角田の田んぼには、田の神様が住んでいるのです。であった人の話では、背丈は親指ほどで、白いひげを生やした、おじいさんの姿に見えるそうです。しかも、白い着物に白いはかま、襟元には朱色のりぼんと、なかなか品の良いいでたちなのだそうです。
 神様といっても、お米を豊作にしたり、お天道様や川の神様を、自在に操る力もありません。田んぼに住んでいるだけの、神様なのです。それじゃ、何で神様なのかと、不思議に思う人もいるでしょう。実は、田の神様も、そのわけはトンとしらないのです。ただ、毎年、年の初めの正月に、角田のお百姓が、田んぼに松飾と鍬をもって田んぼにやってきます。そして、「田の神さん、今年もよろしくお頼みします」と、拝むのです。すると、田の神様も、(やっぱりわしは神様なんじゃナ)と思うのです。
 これは、そんな、角田の「田の神様」のお話です。

第2話 田の神様、美穂ちゃんに会う

 

稲刈りの終わった田んぼは、乾いた冷たい風が吹き抜けています。田の神様は、冬を迎える準備に大忙しです。カヤねずみが、新しい萱を編んで、ふかふかの寝床をこさえてくれました。これに、冬布団を用意しなければなりません。長黄金蜘蛛が銀色のつやつやとした糸で、布団生地を織ってくれました。
神様は、中に詰めるガマの穂を、取りに行く事にしました。夏の間に神様は、茶色に硬くひきしまったガマの穂を、一本選んでおきました。ガマ田に行ってみると、思ったとおり。ちょうど、ふくろうが羽をぷっと膨らましたような、いい形になっています。
(これで今年の冬も、ぬくぬくだぞよ)
神様は嬉しくなりました。そこへガサガサと音がして、神様は辺りを見ました。先客が来ていたのです。人間の女の子です。やはり、ガマの穂を取ろうとしていました。
神様は、人間の子を見ても、平気でした。神様の姿を見ることができる人間は、めったにいないからです。昔は、子供が良い目を持っていましたが、このところ、そんな子にはお目にかかることもありませんでした。そこで神様は、女の子の前にずんずん進み出るとガマの穂を取ろうと手を伸ばしました。ところが、狙ったガマは、ちょっとばかり遠すぎたのでした。もう少しで手が届くという時です。
「ひやー」
神様は足を滑らせて、あやうく泥の中に落ちそうになりました。「あら!あぶない!」女の子が大きな声で言いました。それと同時に、神様は、その子の手のひらの上に、ちょこんと座っていたのです。目の前では、女の子がびっくりしたように神様を眺めています。神様は、おそるおそる聞きました。「あ、あんた、わしが見えるんかい?」 女の子は、黙ってうなずきました。そして、今度はうれしそうに言いました。「おじいさんは、田の神さんでしょう?」今度は、田の神様の目が、お皿のようにまん丸になりました。人間の子と話をしたのは、何年、いや何十年ぶりでしょう。女の子は、田の神様があんまりあわてているので、笑い出してしまいました。
「あたし、美穂って言うの。田の神さん、ガマの穂が欲しいのね」
 美穂ちゃんは、自分の分と、神様の分と、ガマの穂を二本取りました。「あたしの父さんが言ってたわ。田の神さんは、けっして姿はみえないけれど、田んぼに住んでるんだって。でも、あたしは、違うって思ってたの。田の神さんは、ちいさくて、おじいさんで、お米の匂いがするのよ」
 そういうと、神様を自分の鼻に近づけて、くんくん匂いをかぎました。「こりゃ、くすぐったい。なにをするんじゃ」
 美穂ちゃんは、神様をじっと見詰めると、何かを思いついたようでした。「田の神さん、あたしの家に来てちょうだい」「え?あんたの家かい?」「そうよ、あたしの父さんや母さんに、田の神さんはちゃんと見えるんだって、見せたいのよ」 神様は、困ってしまいました。神様の姿は、大人には見えないのです。きっと、美穂ちゃんもがっかりする事でしょう。「美穂ちゃんや、これは、わしとあんただけの秘密にしよう。わしらは、もう友達じゃものな」
 神様は、美穂ちゃんのポケットの中に入って、美穂ちゃんの家に行く事にしました。久しぶりに見る人間の家は、別世界のようでした。かまども、囲炉裏もありません。神様は、心配になって尋ねました。「美穂ちゃん、いったい、ご飯はどこで炊くのかね?」「これよ、電気炊飯器!ちょうど、夕ご飯が炊ける頃だわ」
 黒いしっぽのついた、妙な鍋がありました。丸い穴から、白い湯気がふつふつと上がっています。中から、米粒の踊る音がします。ご飯の炊ける匂いも、ちっとも変わっていません。神様は嬉しくなりました。「美穂ちゃん。家に呼んでくれた御礼に、贈り物をするよ。あんたの手を、ほれ、御飯釜の上に置きなされ」
 美穂ちゃんは、神様の言うとおり、白い湯気を包み込むように手を合わせてみました。手の中に、何かがコロンと入ってきたように感じました。美穂ちゃんは、そっと手を開いてみました。
「わーっ!」
 手の中から、暖かい、白いハートの形が出てきました。そして、ふわふわと漂うと、美穂ちゃんの口の中に飛び込んだのです。「ああ美味しい、おなかがじんわりする!」
 美穂ちゃんは大喜びです。神様も大満足。田の神様だって、このぐらいのことはできるのです。
そこへ、窓の外から、スズメが飛んできました。「神さん!心配してお迎えにきましたよ」
「そうじゃった。冬支度、冬支度!美穂ちゃん、またな!」 神様はスズメに乗ると、美穂ちゃんに何度も手を振って、田んぼへ帰っていきました。