田の神さんのお話

角田産直童話村

角田の田んぼには、田の神様が住んでいるのです。であった人の話では、背丈は親指ほどで、白いひげを生やした、おじいさんの姿に見えるそうです。しかも、白い着物に白いはかま、襟元には朱色のりぼんと、なかなか品の良いいでたちなのだそうです。
 神様といっても、お米を豊作にしたり、お天道様や川の神様を、自在に操る力もありません。田んぼに住んでいるだけの、神様なのです。それじゃ、何で神様なのかと、不思議に思う人もいるでしょう。実は、田の神様も、そのわけはトンとしらないのです。ただ、毎年、年の初めの正月に、角田のお百姓が、田んぼに松飾と鍬をもって田んぼにやってきます。そして、「田の神さん、今年もよろしくお頼みします」と、拝むのです。すると、田の神様も、(やっぱりわしは神様なんじゃナ)と思うのです。
 これは、そんな、角田の「田の神様」のお話です。

第1話 田の神様、秋の花見をする

 

秋の青空が、どこまでも広がっています。田の神様は、胸一杯に空気を吸い込みました。さっきまでは、朝一番の冷え込みにぶるぶるふるえていたのですが、今はお花見のことで夢中なのです。
「さあて、稲刈りの機械が入って、田んぼ中が大揺れになる前の、静かなひと時じゃ。花見にいくぞ!」
稲刈りが始まるお彼岸の頃、田の神様は耳を澄ませます。真っ赤な彼岸花が、ひゅい!ひゅい!と伸びる音や、花が咲くときの、ポンワリという音が聞こえてくるのです。しばらく前から、神様はこの音を聞いていました。ですから、花見に出かけたくて、うずうずしていたのですが、秋梅雨の残りがじゃまして、なかなかでかけられなかったのです。
「秋の花見はこんな日に限る。青い空に赤い花、そして稲は、黄金色にザらんザらんとかがやかねばナ」
田の神様は、田んぼの畦や土手沿いにぐるりと並んだ彼岸花の下を、ツチガエルにまたがって、のたりのたりと花見をしました。
「みごと!みごと!」
満足げに眺めながら、田の神様は、頭の上の稲に声をかけました。
「ほいほい、おめだぢ、今年は、夏の涼しさが応えたようだな。去年のような、パチパチに肥えた籾は少ないな。それでも、良くここまで頭をたれるほど、実が入ったもんだ。」
田の神様は、稲たちにやさしい言葉をかけてやりました。ところが、稲たちは、ちょっぴり面白くなさそうに、こう言いました。
「田の神さん、おら達、もう少し太りたかったな」
田の神様は、お天とさんを仰ぎながら言いました。
「そうだろうよ。だが、お天とさんはな、そう毎年、おめだぢに甘こくするわけにいかねえんだよ」
稲たちも、やっぱりそうだなあと、頭をザらんザらんと振りました。そこへ、黒アゲハが一匹飛んできました。
「田の神さん、ご注文の、萩の密を持ってきましたよ」
黒アゲハは、そう言うと、巻いた口をひゅろんと伸ばしました。田の神様は、急いでふところから、杯を取り出しました。
杯には、香りのいい密がたっぷり注ぎ込まれました。「うまい、秋の味だな」
田の神様は、花の蜜を、こくこくと飲み干しました。すると、神様の目は、まるでお神酒でもいただいたように、三日月のようにとろりと細くなってしまいました。そこへ、ド!ドッド!ドッド!
田んぼ中を揺るがす音と、地響きが押し寄せてきました。稲刈りの機械がやってきたのです。神様は、稲に声をかけました。
「おい、稲たち、うまいご飯に炊いてもらえよ!」
稲たちは、(ハイハイまかしとき)と、また頭をザらんと振りました。神様は、彼岸花にも声をかけました。
「また、明日も来るけ、しおれんで待っててくれよ!」
彼岸花も、(ハイハイ、まだまだ大丈夫)と、返事をしました。稲刈りの機械は、ずいぶん近くまでやってきました。神様は、頭の先まで、ジンジンしてきました。
「こりゃたまらん!さあ、ツチガエルよ、引き上げるとするか」
田んぼの神様は、名残惜しそうに、もう一度杯をなめると、ツチガエルにまたがりました。そして、のたりのたりと、田んぼの畦の奥に、帰っていったのでした。